研究概要 |
本年度はまず,微胞子虫としてカイコ微粒子病病原Nosema bombycis NIS001株を,昆虫培養細胞系としてヤガ科昆虫由来で広範囲の温度条件(25〜37℃)下で培養可能なSpodoptera frugiperda NIAS-Sf-D1細胞系,およびヒト子宮頸部癌由来HeLa S-3細胞系を供試した。N.bombycis胞子をアルカリ処理後,各培養細胞系へ接種し,27℃または37℃で維持した。経時的に微胞子虫胞子接種細胞培養のサンプリングを行い,細胞感染率および微胞子虫の増殖を調査した。N.bombycis胞子をHeLa S-3細胞系に接種した区では,27℃で培養した場合においてのみ微胞子虫の感染・増殖が観察された。また,NIAS-Sf-D1細胞系に接種した場合も,微胞子虫感染および増殖が確認されたのは27℃培養区のみであり,やはり温度が微胞子虫の宿主範囲決定の重要な因子となっていることが明らかとなった。 次に,供試した微胞子虫-培養細胞系の各組み合わせおよび培養温度において,胞子接種7日後の感染培養からタンパク質を抽出し,SDS-ポリアクリルアミドゲル電気泳動を行った。その結果,各微胞子虫感染細胞系に,宿主細胞または培養温度特異的に発現する数種類のタンパク質の存在が確認された。 また,カイコ病原性微胞子虫Nosema sp.NIS M11株胞子をアルカリ処理後,S.frugiperda SF21 AEII細胞系へ接種し,微胞子虫持続感染細胞系を樹立した。その感染培養上清によって処理した未感染SF21 AEII細胞系へM11株胞子を接種し,本微胞子虫の感染および増殖を調査した。その結果,M11の増殖は全く確認されず,既感染宿主細胞では,寄生者である微胞子虫の感染・増殖に対抗する何らかの防御(阻害)物質が産生されている可能性が強く示唆された。
|