Bmdsxはカイコの性分化に関わる遺伝子であり、性特異的スプライシングを受けることによって雌雄で異なる翻訳産物を生じる。既に我々は、Bmdsxの第4エクソンの5'端から15〜34ntの領域に位置するシスエレメント(CE1)に結合する何らかの核内因子がBmdsx pre-mRNAのオス型スプライシングを制御することを昨年の実績報告書において報告している。その後、オスの培養細胞(NIAS-Bm-M1細胞)の細胞核抽出物を用いたUV-cross linking assayを行うことによって、分子量約80kDaのタンパク質がCE1に特異的に結合することが明らかとなった。さらにCE1 RNA配列をリガンドに用いたRNA affinity chromatographyを行った結果、分子量約80kDaのタンパク質(p80)の他に40kDa及び35kDaのタンパク質(p40、p35)を精製することが出来た。それぞれのタンパク質の内部アミノ酸シークエンスを決定した結果、p80とp40はそれぞれp-element somatic inhibitor(PSI)、Hu/elav class neuron specific RNA binding protein(ELAV)に高い相同性を示すタンパク質であり、p35はBmSqd2であることが明らかとなった。オスの培養細胞におけるこれらのタンパク質の発現をRNAiによって抑制した結果、PSIの発現を抑制した場合にのみBmdsxのスプライシングパターンがオス型からメス型へと転換することが確認された。これらの事実は、PSIのカイコホモログがBmdsxの性特異的スプライシング制御因子として機能することを強く示唆している。PSIが性分化に関与するとの報告は過去に例が無く、本研究による今回の発見は高い評価を受けると期待される(論文投稿準備中)。
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