高純度合成酸化物を用いてエステル硫酸の吸着等温線の作成を試みた。高純度鉄酸化物に土壌中に存在することが知られているエステル硫酸態イオウを0.01mmol〜2.00mmolの5段階の濃度で添加し、16時間26度環境下で振とうしたところ反応液中のイオウ濃度の減少を認めたが、吸着等温線は得られなかった。この結果は鉄酸化物の存在が土壌中でのエステル硫酸態イオウの保持に寄与するものの、単純な吸着反応では説明できない可能性があることを示している。また、エステル硫酸態イオウと認識されてきた画分の中に、無機の硫酸イオンが多量に含有される可能性があることが最近になって欧州で指摘されたため、Andisols(火山灰性土壌)とInceptisols(岩石性土壌)についてリン酸溶液(従来法、吸着態硫酸イオンを抽出)の代わりにシュウ酸溶液(改良法、吸着態硫酸イオン、アルミニウム硫酸塩鉱および吸蔵態硫酸イオンを抽出)を用いて硫酸イオンを定量し、エステル硫酸態イオウを求めた。その結果、エステル硫酸態イオウはかつてAndisolsで全イオウ現存量の5割、Inceptisolsで4割を占めると計上されていたが、実際には両土壌とも全イオウの2割程度であることが明らかになった。リン酸溶液で定量されず、シュウ酸溶液で定量される硫酸イオン(アルミニウム硫酸塩鉱および吸蔵態硫酸イオン)は、Andisolsでは全イオウ現存量の36%、Inceptisolsの24%を占めた。これらの結果から、動態が十分解明されていないが存在量が無視できないイオウ画分としては、エステル硫酸態イオウのほかにアルミニウム硫酸塩鉱および吸蔵態硫酸イオンがあることが明らかになった。
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