研究概要 |
大気により負荷されたイオウが土壌に蓄積されると、随伴する酸が消費されることから、イオウの蓄積は土壌の耐酸性に深くかかわっている。そこで土壌イオウの主要な蓄積形態であるエステル硫酸イオンの保持機構の解明を目的とし,高純度合成酸化物を用いてエステル硫酸の吸着等温線を作成し,エステル硫酸態イオウと酸化物との結合様式の推定を試みた。またエステル硫酸態イオウの蓄積量は過大評価されている可能性があるため、その蓄積量の正当な評価を試みた。 高純度鉄酸化物にエステル硫酸態イオウ数種を0.01mmol〜2.00mmolの5段階の濃度で添加し、16時間26度環境下で振とうしたところ反応液中のイオウ濃度の減少を認めたが、吸着等温線は得られなかった。また、エステル硫酸態イオウと認識されてきた画分の中に無機の硫酸イオンが多量に含有されていることが近年欧米で報告されるようになったため、本邦土壌でもエステル硫酸と誤認されている無機硫酸イオン含量とその挙動に関与する土壌成分を調査した。その結果,エステル硫酸態イオウと誤認されている無機硫酸イオン含量は吸蔵態・沈殿態硫酸イオンが主体であり、全イオウ含量のおよそ1割程度、修正前のエステル硫酸イオン含量の半分を占めていることが明らかになった。この吸蔵態・沈殿態硫酸イオンは遊離酸化物含量と高い相関を持ち,一方,修正後のエステル硫酸イオン含量と鉄の遊離酸化物含量の間の相関はなく、アルミニウム遊離酸化物含量とは(吸蔵態・沈殿態硫酸イオンよりは弱い)相関が認められた。これらの結果から、今回のエステル硫酸態イオウ含量の再評価によって、エステル硫酸態イオウは硫酸イオンのように比較的単純な吸着反応に支配されるのではないこと、遊離酸化物との共存にも選択性があることが明らかになった。
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