細菌は他の微生物と同様その生育に硫黄を必要とするが、通常は最も利用しやすい無機硫酸イオン(SO_42-)を硫黄源とする。しかし自分の周辺環境から自由にSO_42-を摂取できない、「硫酸飢餓」と呼ばれる一種の硫黄欠乏状態に陥ると、その環境に存在する様々な有機化合物を分解して硫黄源とする能力を持っている。土壌中の硫黄元素はその98%が有機物の形で存在しているため、土壌細菌にとってはこの硫酸飢餓応答機構が土壌環境中における重要な生存戦略となる。我々は昨年度、dimethyl sulfide (DMS)を唯一の"硫黄源"として生育可能な土壌細菌Pseudomanas putida DS1株で見出され、DszAやSfnGホモログであるFMN依存性モノオキシゲナーゼSfnA(ただしSfnGとはアミノ酸レベルで30%程度の低い相同性を示す新規な酵素)がmethanthiol(MT)の硫黄代謝に関与していることを明らかにした。そこで本年度は、SfnAの機能解析とともに、硫酸飢餓状態におけるsfnA遺伝子の発現調節機構について解析を行なった。sfnA遺伝子の発現は、新規転写調節因子SfnRの制御下にあると推測されたため、硫酸飢餓状態にあるDS1株およびsfnR破壊株におけるsfnAの発現をRT-PCR解析により調べたところ、予想通りsfnR破壊株では発現していないことが明らかとなり、sfnAの発現がSfnRによって正に制御されていることが示された。またprimer extension法によりsfnAの転写開始点を決定した後、sfnA上流に見出された推定SfnR結合サイトに基づきレポーター解析を行なうことで、sfnAの転写に必要なDNA領域を決定した。さらに推定SfnR結合配列に変異を導入してレポーター解析も行なった。SfnAを大腸菌クローンを用いて生産してmethansulfinateに対する酸化活性を確認したところ、わずかながら活性を示した。
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