メタノールは安価でかつCO_2まで簡単に酸化されるクリーンな炭素源であることから、次世代のエネルギー源として期待されているC1化合物である。メチロトローフ酵母はメタノールを誘導炭素源にすることで、アルコールオキシダーゼ(AOD)を菌体内タンパク質の数十%に達するほど強力に誘導する能力を有している。本申請者は、メチロトローフ酵母Pichia methanolicaの2つのメタノール誘導性AOD遺伝子プロモータが、同一細胞内で複数の有用タンパク質の発現を行え、その発現量比・発現時期をメタノールおよび酸素濃度により自在にコントロールできる新たな分子生物学の研究ツールとして利用できる可能性を秘めているものと考えている。 本研究では、2つのAODプロモータ、MOD1およびMOD1プロモータをそれぞれ用いた異種発現系を開発した。また、出芽酵母由来酸性フォスファターゼ遺伝子PHO5をレポーター遺伝子として両プロモータの発現力を比較したところ、両プロモータともメタノールで強力に発現されるが、グリセロールによる発現はMOD1プロモータでのみ見られた。さらには低メタノールおよび低酸素濃度下ではMOD1プロモータが、高メタノールおよび高酸素濃度下ではMOD2プロモータが優位に発現することを明らかにした。これらの結果から、P.methanolicaの2つのAODプロモータを組み合わせることで、複数の有用タンパク質の発現をそれぞれ制御できる新規異種遺伝子発現系の構築の可能性を示した。
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