本研究課題は、メチロトローフ酵母Pichia methanolicaの2種のアルコールオキシダーゼ(AOD)遺伝子プロモータを利用した新規異種遺伝子発現系の確立を目的としている。昨年度、申請者は同一細胞内で複数の有用タンパク質の発現量比・発現時期をメタノールおよび酸素濃度により自在にコントロールできる2種のAOD遺伝子プロモータを利用した異種遺伝子発現系を開発した。本年度は発現タンパク質の細胞内局在の制御の可能性について検討した。 AODアイソザイムがペルオキシソーム(Ps)局在であることから、AODの細胞内輸送機構を応用して発現タンパク質をPsに集積させることが可能であると考えられる。そこでAODアイソザイムの細胞内輸送制御機構の解明、さらには発現タンパク質のPs選択的輸送について検討した。まず、AODアイソザイムのPs輸送体と考えられるPex5pの一次構造とその欠損株の表現型について解析を行った。Pex5欠損株ではAODなどPs局在型メタノール代謝酵素がPsには輸送されていなかった。つまり、Ps局在型メタノール代謝酵素はPex5pを介して輸送されており、Pex5pが認識するシグナル配列PTS1が異種発現タンパク質のPs輸送に最適であると結論付けた。そこで、PTS1を付与したGFPをAODプロモータにて発現させ、その細胞内局在を観察した。その結果、GFPは効率的にPsへ輸送され、Pex5欠損株ではPs輸送は観察されなかった。また、ミトコンドリアのタンパク質内膜輸送に関与するTim9の構造についても明らかにした。 これらの結果は、2種のAODプロモータを利用した異種遺伝子発現系において発現タンパク質をPsに特異的に蓄積できることを示しており、P.methanolicaの新規異種遺伝子発現系を確立することができたものと考えている。
|