本研究の目的は、大腸菌の有機溶媒耐性変異株を宿主として用いて溶媒存在下における疎水性物質変換反応を行い、高度溶媒耐性大腸菌の溶媒存在下における変換菌としての有用性について明らかにすることである。既に取得している有機溶媒耐性大腸菌を親株として用いて、さらに有機溶媒耐性度の向上した新規な有機溶媒耐性大腸菌の取得を行なった。毒性の強い有機溶媒を重層した培地を用いて大腸菌を培養し、生育した有機溶媒耐性変異株を分離した。大腸菌の有機溶媒耐性には薬剤排出タンパク質であるAcrAB-TolCポンプが関与していることが知られており、これらタンパク質の発現を調節している複数の転写制御因子が同定されている。これら転写制御因子のうちの1つが取得した有機溶媒耐性変異株の有機溶媒耐性に関与していることを見出した。また、これら有機溶媒耐性向上変異株のうち特に有機溶媒耐性度の高かった変異株のタンパク質発現を解析し、親株と比較して発現量が増加しているタンパク質を同定した。変異株の膜タンパク質と菌体内タンパク質を分離して調べた結果、膜タンパク質において顕著なタンパク質発現量の変化が確認された。これらタンパク質の有機溶媒耐性への関与を調べるために、各遺伝子を破壊株した株を構築し、有機溶媒耐性を調べた。この結果、浸透圧調節に関わるタンパク質が、有機溶媒耐性に関与することが示唆された。さらに、取得した変異株に芳香族化合物酸化酵素であるインドールからインジゴ(青色の染料)を生成する酵素をコードする遺伝子を導入し、形質転換体を作製した。現在、この形質転換体を水-有機溶媒の2相培養液を用いて培養し、インジゴ生産性を検討した。この結果、溶媒存在下において親株(非有機溶媒耐性株)よりも、変換効率が向上した有機溶媒耐性変異株を取得できたことを確認した。
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