きのこ類は国内だけでも年間約2000億円を超える市場を抱える重要な農産物であり、日本人が好む食材の一つである。しかし、その栽培は従来からの固定的な方法で行われており、画期的な品種や育種法が望まれている。そこで、担子菌類の子実体(きのこ)形成時において特異的に発現する遺伝子について解析を行った。 最もポピュラーなきのこの一つシイタケ(Lentinula edodes)において、cDNA-RDA(cDNA-Representational Difference Analysis)法を改変した遺伝子サブトラクションを試みた結果、子実体形成過程において特異的に発現する105クローン(子実体原基51クローン、成熟子実体54クローン)の遺伝子cDNA断片の単離に成功した。これらのクローンの塩基配列を解析し予想されるアミノ酸配列についてデータベースを検索した結果、コードされる産物は一般的代謝、細胞構造、シグナル伝達、ストレス応答などに関わるタンパク質と高い相同性を示すことが明らかとなり、様々な代謝経路やシグナル伝達経路が子実体形成時に働くものと考えられた。一方、約半数のクローンはデータベース上の遺伝子及びタンパク質と全く相同性が見いだせなかったため、シイタケに特有な新規遺伝子であると考えられた。 これらクローンのうち、20個の遺伝子クローンについて子実体形成過程における転写発現パターンをRT-PCRにより調べた結果、子実体形成過程を通じて構成的に発現しているもの、胞子形成を行う成熟子実体中にのみ発現しているもの及び子実体発生の初期段階である子実体原基にのみ発現しているもの、の大きく分けて3パターンに分類することが出来た。これら遺伝子及びその産物タンパク質はシイタケの子実体形成過程において重要な役割を担っていると考えられた。
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