きのこ類は国内だけでも年間約2000億円を超える市場を抱える重要な農産物であり、日本人が好む食材の一つである。しかし、その栽培は従来からの固定的な方法で行われており、画期的な品種や育種法が望まれている。最もポピュラーなきのこの一つシイタケ(Lentinula edodes)の子実体(きのこ)形成時において特異的に発現する遺伝子を単離するため、cDNA-RDA (cDNA-Representational Difference Analysis)法を改変した遺伝子サブトラクションを試みた結果、子実体形成過程において特異的に発現する105クローン(子実体原基51クローン、成熟子実体54クローン)の遺伝子cDNA断片の単離に成功した。 これらクローンのうちの一つ、子実体原基特異的クローンpri30174をプローブとして、シイタケ子実体原基のcDNAライブラリーから全長cDNAを単離し、Le.flp1と命名した。Le.flp1はシイタケの子実体原基及び成熟子実体にのみ特異的に発現しており、子実体形成関連遺伝子であることが示唆された。Le.flp1にコードされるLe.FLP1タンパク質は、N末にタンパク質輸送のためのシグナルペプチド、C末にGPIアンカー部位、それらに挟まれるかたちで細胞接着活性を持つと考えられるFasciclinドメインを有していた。in situハイブリダイゼーションにより、Le.flp1は原基・かさ・柄の外側の部位、ひだの担子器分化の境界において特異的に発現しており、その発現パターンはシイタケの子実体形成関連遺伝子であるリボヌクレオチドレダクターゼ遺伝子Le.rnr2及び原癌遺伝子Le.rasと酷似していることが示唆された。これらの結果からLe.flp1は細胞接着を介して、子実体形成における様々な場所で細胞外タンパク質として働くことが考えられた。
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