構造プロテオミクス、プロテオーム解析など網羅的なタンパク質の機能解析の一方で、各論的な分子機能解析も今後の重要な課題となる。本研究の目的は分子機能解析の一環としての自殺基質を用いた糖質関連酵素の活性中心の一般的な探索法の開発である。自殺基質(EAG)は、酵素が基質を認識する機構を考慮した糖分子と反応基にはカルボキシ基と反応性の高いエポキシ環を用い、これら二つの分子群の距離をアルキル基鎖長を増減することで調節し、より特異性の高い自殺基質を設計した。酵素失活の分子機構解析に関しては失活が自殺基質的であることを反応動力学的に実証した。応用例も開発した。 1.自殺基質の失活反応の解析;自殺基質の効果を解析するモデル酵素としてisomalto-dextranaseを用いた。アルキル基の長さ(炭素数3-6)が異なる自殺基質(E3G〜E6G)を混合し阻害効果を調べた。各自殺基質(EAG)濃度で失活の擬一次速度定数を求め、EAG濃度に対して擬一次速度定数をプロットすると両者の関係は直線ではなく飽和曲線となりMichaelis-Menten型の失活反応を示すことがわかった。すなわち失活はメカニカルベースであることがわかった。またE5Gの二次速度定数は他のEAGの6倍から10倍高くなっており、アルキル基の鎖長が自殺基質としての能力に重要なファクターであることがわかった。 2.EAGを用いたα-amylase活性の特異的測定法;EAG利用の応用として生物試料破砕液からα-amylase活性を特異的に測定する方法の開発を試みた。β-amylase阻害剤E4Gとα-glucosidase阻害剤CBEをα-amylase:β-amylase:α-glucosidase混液と混合し後者二酵素を特異的に失活させ、α-amylaseのみの活性測定に成功した。このことは酵素を精製することなく粗酵素液中などで特定の酵素を失活させることができること示している。またこの結果は標識した自殺基質を用いて修飾後、ペプチドマスフィンガープリントなどにより、粗酵素液でも特定の酵素の活性中心のアミノ酸配列を知ることができるツールに成り得る可能性を示している。 3.自殺基質との複合体立体構造の解析については期間内に解析を完了することはできなかった。現在も引き続き進行中である。
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