葉緑体分裂には、FtsZ、MinD、MinEに代表される進化的に保存されたバクテリア様分裂因子群と真核生物特有のダイナミン様タンパク質が関わる。本年度は、シロイヌナズナの核コード葉緑体MinE(AtMinE1)の役割について、遺伝子過剰発現系統および発現抑制系統の葉緑体観察により解析を行った。 カリフラワーモザイクウイルス35Sプロモーターによる高発現の結果AtMinE1転写産物を野生型植物の約120倍蓄積する過剰発現系統は、AtMinD1突然変異体(arc11-1)と同様の表現型を示し、成熟葉内細胞中に巨大葉緑体からミニ葉緑体に至る異型葉緑体を含んでいた。一方、AtMinE1アンチセンスRNAの高発現によりAtMinE1転写産物量が野生型植物の1/4程度に低下した発現抑制系統は、弱い分裂阻害の表現型を示した。発達中の実生葉緑体を詳細に観察したところ、AtMinE1過剰発現系統の緑色組織にはマルチアレイまたはダンベル型の分裂葉緑体が存在し、さらにダンベル型の分裂葉緑体には等分裂を行うものと不等分裂を行うものとが存在した。これらは、AtMinE1が葉緑体分裂位置の空間的制御に関わっており、正常な葉緑体中央分裂は中央赤道面以外での分裂面形成の阻止によって行われることを示唆した。さらに、AtFtsZ1-1プロモーター制御下全長AtFtsZ1-1とGFPとの融合タンパク質を発現するコンストラクトを導入してAtMinE1過剰発現葉緑体におけるFtsZをモニターしたところ、FtsZは分裂葉緑体の長軸方向に1または複数のリング構造を形成し、それらの一部は分裂狭窄の位置と完全に一致していた。 以上の結果から、MinEはFtsZリングの形成を空間的に制御し、葉緑体分裂位置決定に関わることが示唆された。
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