細菌のリポタンパク質はアミノ末端のシステイン残基が脂質修飾された一群のタンパク質であり、グラム陰性細菌では内膜または外膜にアンカーしている。リポタンパク質の局在化機構は大腸菌において詳細に解析されており、システインの次位(+2位)のアミノ酸残基がアスパラギン酸であるリポタンパク質は内膜に、それ以外のアミノ酸であるリポタンパク質は外膜に局在していることから、リポタンパク質選別の「+2ルール」と呼ばれている。しかし、緑膿菌の薬剤排出ポンプMexAB-OprMの内膜サブユニットであるMexAはリポタンパク質であるが、+2位はグリシンである。このことから緑膿菌ではリポタンパク質の選別に大腸菌とは異なる機構が働いている可能性が考えられる。そこで本研究では緑膿菌のリポタンパク質の選別シグナルを解析した。 MexAのアミノ末端から20残基目までをOprMに置換した融合タンパク質は、外膜に局在した。したがってMexAの内膜局在化シグナルは+2位残基にはなく、それ以降の20残基目までの間に存在すると考えられた。この領域を段階的にOprMに置換した融合タンパク質を作製し、局在性を解析したところ、+3位のリジンと+4位のセリンがMexAの内膜局在化シグナルとして機能していることがわかった。シグナルが緑膿菌リポタンパク質全般に当てはまるかどうかを調べるために、モデルリポタンパク質としてOprMのシグナルペプチドに大腸菌Maltose Binding Proteinの成熟体領域を融合させたタンパク質(lipo-MalE)を作製し局在性を調べたところ、lipo-MalEの+3位と+4位がMexAと同じリジン-セリンであれば内膜に、OprMと同じロイシン-イソロイシンであれば外膜に局在化したことから、緑膿菌リポタンパク質の膜局在性は大腸菌と異なり、+3位、+4位残基によって規定されていることが明らかになった。
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