一般的に、糖加水分解酵素は反応機構の違いから、「アノマー保持型酵素」と「アノマー反転型酵素」の2種に大別される。アノマー保持型酵素は糖転移反応も触媒することから、糖鎖合成のツールとして用いられている。さらに、アノマー保持型酵素は求核基を不活性化させることで加水分解能を消失させた変異型酵素と反対側のアノマー型のフッ化オリゴ糖を基質に用いて合成反応のみを触媒する、いわゆる「グライコシンターゼ化」した研究例も報告されている。一方、アノマー反転型酵素は糖転移反応を全く触媒せず、用途が分解反応に限られていた。また、アノマー反転型酵素の不活性型酵素とフッ化糖を組み合わせた上記のグライコシンターゼ化の研究も全く行われていなかった。 本研究ではアノマー反転型酵素であるRex (Bacillus halodurans C-125由来還元末端オリゴキシラナーゼ)をグライコシンターゼ化するとともに、その反応機構を解明することを目的とした。 Rexの触媒に関与する求核基(Asp263)を様々なアミノ酸残基に置換すると、その特性(電荷、疎水度および立体障害の有無)の違いによって、加水分解能が消失してグライコシンターゼ化することが期待された。本研究では、まずATGCミックスプライマーを用いて求核基に該当するアミノ酸残基を標的にランダムな変異を導入し、大腸菌を宿主とした高蛋白質発現系に得られたランダム変異導入酵素遺伝子を形質転換することにより、求核基に様々なアミノ酸変異が導入された組換え体Rexのライブラリーを作製した。以上の変異型Rexライブラリーから、X2-FとXを基質に用いて酵素反応を行い、薄層クロマトグラフィー分析等によりX3生成量の多い変異型酵素およびフッ素電極分析によりフッ素遊離速度の速い2種の変異型酵素を選抜した。
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