ヒストンのアセチル化は遺伝子の発現を制御する重要な翻訳後修飾である。ヒストンのアセチル化を制御する酵素群はヒストンアセチル化転移酵素(HAT)、ヒストン脱アセチル化酵素(HDAC)から成り、ヒトにおいては18種類のHDACサブタイプの存在が報告され、それぞれ役割分担があることが示唆されている。さらに最近、ヒストン以外に多くの転写因子もアセチル化を受けることが明らかになり、アセチル化は核内の主要な翻訳後修飾であることが明らかになってきたが、細胞質におけるアセチル化の機能は、その存在も含めて最近まで不明であった。しかし、我々はHDAC6が微小管脱アセチル化酵素として機能し、細胞の運動性や微小管の安定性を制御することを最近見出した。さらに、HDAC6はプロテアソームの阻害剤処理によるアグリソームの形成に必須であり、HDAC6はアグリソームの形成を促進することにより細胞死を抑制することを示してきた。最近、HDAC阻害剤によって誘導されるアポトーシスにBH-3 onlyタンパク質であるBimの関与が報告された。Bimは微小管に存在し、アポトーシスを誘導する刺激によりミトコンドリアに移行することが知られている。HDAC阻害剤はBimの発現を上昇させるだけでなく、Bimのミトコンドリアへの移行を制御していることが示された。これらの知見から微小管と相互作用しているHDAC6がBimの局在を制御することにより、アポトーシスに関与している可能性が強く示唆される。研究代表者は細胞内でHDAC6とBimが強く結合していることを見出した。さらに、プロテアソーム阻害剤によって誘導されるアグリソームにBimはHDAC6と共局在することを明らかにした。以上の結果から、HDAC6による細胞死抑制作用機構として、Bimのアグリソームへの局在移行制御が示唆された。
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