食品有害微生物は、加工・輸送のプロセスを経る毎に増殖する可能性があり、生産から消費に至る各段階で微生物を制御する技術を確立することが望まれる。特に胞子形成細菌は、食品製造現場における殺菌でも胞子状態として生き残る可能性があり、食中毒の原因と考えられている。そこで、本研究では胞子形成細菌の増殖抑制法を開発することを目的とする。これまでにも胞子を死滅させる殺菌法が考案され、実用化されてきた。しかしながら、通常用いられる物理的殺菌法(加熱、加圧、電気的制御)を含め既存の方法では、完全に胞子を死滅させることは不可能である。このため、従来の物理的方法とは全く作用機序の異なる方法を提案し、従来法と有機的に組み合わせることで、食品の安全性を一層向上させることに貢献できると考えた。アラニンラセマーゼは細菌細胞壁に必須なD-Alaを産生する酵素であり、ヒトに存在しないことから、食品分野に限らず抗菌剤の標的になっている。現在、サイクロセリンがアラニンラセマーゼ活性の阻害剤として市販されているが、人体への影響を考慮すると、食品にこうした阻害剤を適用することは不可能である。そこで、アラニンラセマーゼの阻害剤で、人体への影響を最小限に抑えうるものをペプチド中から探索することを試みている。本年度は、アラニンラセマーゼの酵素学的キャラクタライゼーションを行うとともに、抗菌ペプチドの探索を開始した。ラセミ化反応をアラニン脱水素酵素との共役反応により測定する系を活用して、本酵素のK_M値を決定した(8.2mM)。また、数種類のジペプチドについて、AlaR活性に与える影響を検討した。その結果、大半のジペプチドはラセミ化反応に全く影響しなかったが、一方で、ある種のジペプチドを反応系に共存させた場合、ラセミ化反応に影響を及ぼすことが判明した。現在、引き続き候補ペプチドの探索を行っている。
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