本研究では食品産業界で通常用いられている熱や圧力による殺菌法と併用できる、胞子形成細菌の化学的制御法の構築を目的としている。本年度は昨年度に引き続いて、細胞壁合成に関与するアラニンラセマーゼの阻害ペプチドを探索した。これまでの報告により、本酵素の活性は直接測定することは困難であるため、通常行われているアラニン脱水素酵素との共役反応による活性測定法を適用した。その結果、20種類のジペプチドについて阻害活性を測定したところ、Glu-Ala及びGly-Gluを用いたときのみ活性の大幅な減少が認められた。しかし、いずれのジペプチドも活性測定系に共存させているアラニン脱水素酵素を非競合的に阻害することが判明し、その際の阻害定数は544μM(Glu-Ala)、682μM(Gly-Glu)であった。アラニン脱水素酵素は生育に必須ではないものの、胞子形成及び出芽に必須な酵素であるため、引き続き得られたジペプチドの胞子形成阻害活性を測定した。枯草菌は静止期に突入すると熱耐性をもつ胞子の形成を開始することが知られている。そこで、静止期に入った時点で培地中にジペプチドを添加し、熱耐性を指標にして胞子形成能を測定した。その結果、上記ジペプチドを添加した場合には、他のジペプチド及びアミノ酸を添加した場合に比べて、その胞子形成能が有意に減少した。そのときの最小生育阻止濃度はいずれも5mMであった。一方、アラニン脱水素酵素の反応生成物であるピルピン酸を添加しても胞子形成能が回復しなかった。これは単なる酵素活性の阻害が胞子形成に直接影響しているのではなく、関連遺伝子の発現等に変化が引き起こされた結果であると考えられた。 上記成果を基に論文投稿準備を行っている。
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