カルパインは、特定の基質タンパク質を限定分解し、その構造や機能を制御・修飾するモジュレータープロテアーゼで、様々な発現様式を有する14種の分子種が存在する。カルパインの活性不全が筋ジストロフィー症、糖尿病など種々の病態の要因になること、組織普遍的に発現するカルパイン遺伝子のノックアウトマウスは胚性致死になることから、その生理機能は多様で、非常に重要であると考えられる。これは、食物の消化・吸収という生体の構成・維持の根本を担う胃腸でも例外ではなく、現代のヒトの死因の多くを占める胃癌との関与が示唆されている。しかし、その分子機構を含め、胃腸におけるカルパインの機能は不明である。申請者は、14種の分子種のうち、胃特異的に発現する分子種nCL-2に着目し解析を開始した。その結果、組織内局在解析から胃粘膜の表層粘液細胞に限定して発現することと、nCL-2のプロテアーゼ活性をもたないノックインマウス作出し、これらがストレス性の胃粘膜出血傾向にあることを明らかにした。 その分子機構を明らかにする目的で、酵母two-hybrid法、マウス胃粘膜タンパク質を用いたpull-down法によってnCL-2相互作用因子・基質の同定を目指した。その結果、β-COP(輸送小胞コートタンパク質)が基質であることを見出し、nCL-2がβ-COPの限定分解を通じて粘液細胞内における粘液分泌小胞・顆粒の輸送・分泌を制御している可能性を見出した。またその他に、ミトコンドリアタンパク質、ユビキチンリガーゼなども相互作用因子として同定した。そして上記ノックインマウスと野生型マウスの胃粘膜タンパク質の二次元電気泳動解析を行い、両者で発現量に差があるタンパク質を数種見出し、Mass spectrometryによる同定を進めている。同定したタンパク質についてはnCL-2との相互作用の生理的意義を解明していきたい。
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