森林斜面において、水は樹木の生存に必須であるだけでなく、土壌中の養分移動にも重要な役割を果たすため、その分布は樹木の種構成や生育に大きく影響を与えると考えられてきた。これまでの斜面水文研究により、斜面の内部、特に土壌層中の水の分布と移動について多くの知見が得られてきたが、これらの斜面水文研究から得られた結果と地上部の樹種構成や成長の関係を同時に把握し、明らかにした研究例は少ない。そこで、本研究では森林斜面に沿った詳細な水文観測、植生調査、土壌の理化学性の調査等を行い、また最新の斜面水文研究の成果に基づいて斜面中の水の流れと樹木の種構成や成長の関係を明らかにすることを目的としている。 本年度は、調査プロットの選定、設置と、水文、植生、土壌の調査を行った。調査地は、東京大学農学生命科学研究科附属樹芸研究所青野研究林(伊豆半島南部)に位置する長期生態系観測プロット内の斜面で行うこととした。調査地の植生は1955年に炭焼き林として伐採された後に成立したスダジイの優先する照葉樹林からなり、1998年、2003年に毎木調査が行われている。対象とした南東向きの極急斜面(約31°)に、尾根部では12.5m、谷付近では6.25mの間隔で、22箇所にハンドオーガーを用いて人力では掘れなくなる硬さまで穴を掘り、直径6cmの塩ビパイプによる観測井戸を設置した。これらの観測地点で2005年8月からほぼ月に一度の間隔で地下水位と表層付近の土壌水分量の観測、降水と地下水の採取と水質分析を行っている。また、同じ22地点で簡易貫入試験を用いて土壌の硬さを測定した。 現在は調査とデータ解析の途中段階であるが、これまでの調査の結果、対象とした斜面は礫の多い0.7-3mの土壌層に覆われていること、岩盤は亀裂が多く、透水性の小さい水文学的な基岩層はかなり深いところにある可能性が高いことが明らかとなってきた。次年度は上述の観測から得られた結果などを用いて、斜面中の水の流れと樹種構成や樹木の成長の関係に焦点をあてて解析を行う予定である。また、採取した土壌の分析等も行う予定である。
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