森林の伐採および人工林の成長に伴い渓流生態系に生じる変化について、斜面の崩壊および渓流での土石流発生を考慮して明らかにするため、林齢の異なる人工林(1-90年生)の集水域と天然林の集水域(計10集水域)において渓流の土石流発生履歴、物理環境、底生動物群集、流下有機物の調査を行った。土石流発生履歴を過去の航空写真より特定した。物理環境として樹冠開空度、河道内土砂量、水温、水質について一年を通して調べた。底生動物群集および流下有機物も一年を通して一月間隔で調査した。過去最近の土石流発生は中間の林齢(14-30年生)の渓流で確認された。渓流の物理環境は林齢とともに単調に変化するもの(開空度、水中NO3濃度)、林齢との対応関係が小さいもの(土砂量、水温、NO3以外の水質)が見られた。一方、底生動物群集及び流下有機物は林齢との関係は単調ではなく、若齢林と高齢林では違いはないものの、これらと中齢林で大きく異なっていた。底生動物と有機物で見られた渓流間での変異は、土石流発生履歴と対応するものであった。これらの結果は、山地源頭部において渓流生態系に大きな影響を及ぼすイベントとして森林の伐採それ自体ではなく、伐採数年後から数十年間に発生しやすくなる土石流が重要である可能性を示すものであった。土石流が渓流生態系に及ぼす影響はこれまでには報告例がなく、これらの研究成果を日本生態学会および日本森林学会で発表した。
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