本年度は現地調査により源頭渓流内の有機物プロセス、生息場物理構造に関するデータを収集、解析した。 1 有機物プロセス 春と秋の2回に渓流内に滞留する落ち葉の分解速度の測定と分解に関わる底生動物を、流域のスギ林林齢や土石流発生履歴の異なる10渓流間で比較した。いずれの季節においても、若齢林(1-2年)と高齢林(>42年)の渓流では、中齢林(16-31年)の渓流に比べて分解速度が大きかった。若齢林と高齢林の渓流では過去30年以上土石流は発生していないが、中齢林の渓流では過去20年以内に土石流が発生しており、渓流における分解速度は土石流発生履歴と関係することが明らかとなった。中齢林の渓流では落ち葉を分解する底生動物の1種の生息数が極めて少ないことが分解速度の遅い理由と推察された。前年度の研究で、渓流水における微細有機物量は、中齢林に比べて若齢林と高齢林で高いことが分かっている。これらのことから土石流によって落ち葉を分解する底生動物が少なくなると微細な有機物の生産が減り、結果的に流水中の微細有機物量も減少することが考えられた。 2 生息場物理構造 林齢と土石流発生履歴の異なる42渓流で、河道土砂量、倒木、枝ダム、淵の出現頻度と、微生息場構造の評価を行った。河道土砂量は渓流間で大きなばらつきがあったが、林齢や土石流発生との関係はみられなかった。一方、倒木や枝ダムは土石流発生が古い渓流ほど多い傾向が明らかとなった。また、土石流発生が最近の渓流では、止水的環境に特徴的な微生息場タイプが欠けていることも明らかとなった。前年度の研究と合わせて、土石流によって倒木や枝ダムが取り払われると、微生息場が流水的から止水的なものに変わり底生動物群集に影響することが示された。
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