平成19年度は前年度までにフィールド調査で得られた膨大な渓流の水質、生物、物理データを整理するとともに、関係資料の収集整理を行い当研究で得られた結果についての位置づけや一般性を確かめ、また論文にまとめ関連分野の海外誌への投稿を行った。 本研究は、森林における伐採と植生の回復過程での動態が、渓流生態系にとってどういったインパクトのあるものかを明らかにすることが主要な目的であった。事例研究を整理することで、森林が渓流に影響を及ぼすメカニズムとして、光、栄養塩、有機物といったエネルギーの観点で議論されることがほとんどであることが分かった。当研究で明らかとなった1つである「森林伐採から数年〜数十年後に起こる土石流の発生が渓流生態系に及ぼす大きな変化」は、森林と渓流のつながりにおいてこれまでにない新しい知見であり、森林と渓流生態系の関係を理解する上でエネルギー資源と同様に渓流の土砂動態と物理生息場の観点が重要であることを示すものであった。また、海外事例と照らし会わせることで、このような土砂動態や物理生息場が重要となる背景には、日本に多い急峻な渓流の特徴が大きく関わっていることもわかった。本研究の結果をもとに、森林の伐採に始まる植生の回復過程に伴い渓流生態系においてどのような変化が起こるかを図式化するとともに、源頭渓流の生態系を健全に保つための伐採頻度といった森林管理手法についての提案を行い、またこれらの成果を海外誌に投稿した。
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