研究概要 |
福岡都市圏近郊に位置する森林流域において,窒素循環研究を行うために,これまで全国的に測定の乏しかった乾性沈着物の定量を強化し,大気降下物の測定を行った。具体的には,林内雨・樹幹流,渓流水等の観測を行うことにより,乾性沈着を含めた森林における包括的な窒素循環研究を行い,以下のような点を明らかにすることを目的とした。1)福岡近郊森林域における窒素負荷量はどれくらいなのか?2)乾性沈着による窒素負荷量は多いのか?3)流出負荷量はどれくらいなのか? 平成17年度は,福岡市から東方に約10km離れた福岡演習林御手水試験流域(ヒノキ人工林)において,林外雨・林内雨・樹幹流,渓流水を採取し,窒素化合物の湿性沈着量(林外雨)と林床への負荷量(林内雨・樹幹流)及び流出負荷量(渓流水)の計測を行った。その結果,林外雨による窒素負荷量は10.7kgNha^<-1>yr^<-1>で,国内の都市域とほぼ同程度の負荷量であった。林内雨・樹幹流による窒素負荷量は14.1kgNha^<-1>yr^<-1>であり,林外雨と比べて高い値を示した。この増加は,森林樹冠への乾性沈着によるものと思われた。御手洗水流域では,日中では主に西風,夜間では東風が卓越しており,海陸風循環が形成されていた。御手洗水流域の西側には福岡都市圏が近接していることから,日中に都市域から排出された汚染物質が海風によって移流され,御手洗水流域に到達している可能性が考えられた。流出負荷量は,8.9kgNha^<-1>yr^<-1>で,渓流水中の硝酸イオンの平均濃度は,61.7μmol/Lであり,比較的高い値を示した。この原因の一つに,大気からの窒素負荷量が多いことが挙げられた。このことを検証するため,渓流水中の有機態窒素の測定を行い,無機態窒素との濃度比較を行った結果,全窒素(有機態窒素+無機態窒素)の内,無機態窒素の占める割合が高かった。この結果から,大気からの窒素の負荷が高いために,渓流水中の硝酸イオンが高濃度であるということが支持された。
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