今年度は、野外植栽実生の内生菌相調査と接種菌の選定、接種法の確立を行った。ただし、今年度はマテバシイ種子の予想外な不作のため、十分な数のマテバシイ種子が入手できなかった。そこで、代替措置としてマテバシイについては接種候補菌の選定時にこれまでの調査結果を参考にするのみに留め、実際の菌相調査と接種法の確立はマテバシイの代わりに鹿児島で同様の生態的地位にあるタブノキを材料に用いている。来年度以降はマテバシイも材料に用いる予定である。 1.内生菌相調査 実験室で種子から育成したクロマツ及びタブノキの実生を鹿児島県桜島及び高隈演習林に植栽した。実験室内では両樹種とも実生から内生菌はほとんど分離されず、これら実生への内生菌の感染が種子経由ではないことが明らかになった。梅雨時に植栽したクロマツは短期間で死滅したため、以下の試験で必要なデータは桜島における天然の実生での調査結果で代替した。秋季に植栽したタブノキは植栽後定期的に内生菌相の調査を行った。その結果、野外では比較的短期間で実生への内生菌の感染が生じることが明らかになった。 2.内生菌接種試験 今回の野外調査結果と今までの調査データを併せ考えた結果、様々な樹種の全身から高頻度で分離されるPhomopsis sp.を接種侯補菌として選定し、接種方法の確立を試みた。本菌は安定的に胞子を形成させることが困難な反面、菌糸成長は速いため、寒天培地上で生育した菌糸を用いて接種を行った。クロマツ種子への接種は、感染させることが出来ないか種子の発芽が抑制された。そこで、クロマツ及びタブノキ実生に菌糸培養寒天片を実生の地際に置床する方法、無傷の茎に寒天片を貼り付ける方法、茎にカミソリで傷を付けて寒天片を貼り付ける方法を試みた(クロマツは前二者のみ)結果、最後の方法で高頻度の感染が確認され、実生に対する有傷接種が妥当な接種法と考えられた。
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