研究概要 |
本研究では、実際の酸素脱リグニン過程を忠実に再現するため、分子状酸素とフェノール性化合物2,4,6-trimethylphenol(TMPh)との反応により活性酸素種をin situに生成させ、非フェノール性リグニンモデル化合物(1-(3,4-dimethyoxyphenyl)ethane-1,2-diol, veratryl glycol(VG))と炭水化物モデル化合物(methyl β-D-glucopyranoside(MGP))へのこれら活性酸素種の相対反応性(反応選択性)を検討した。 系中でモデル化合物を直接攻撃する様々な活性酸素種、すなわち、ヒドロキシルラジカル(HO・)や酸化的連鎖反応中間体等をそれぞれOX_1,OX_2,…,OX_n,…とすれば、モデル化合物の分解速度は-d[VG]/dt=k_<VG>(t)[VG]Σ[OX_n]、-d[MGP]/dt=k_<MGP>(t)[MGP]Σ[OX_n]で表せる。これらを変形してまとめると、k_<VG>(t)/k_<MGP>(t)=(d[VG]/d[MGP])([MGP][VG])が得られる。左辺は、ある反応時間において系中で働く全活性酸素種のVG・MGPへの反応選択性値を表す。この式を用いて以下の結果を得た。 初期pH11.8の反応において、反応時間30分まではk_<VG>(t)/k_<MGP>(t)は一定値2.1であった。Giererらによれば、HO・のveratrylglycerol-β-guaiacyl ether・MGPへの反応選択性値は2.7である。また、反応時間30分までは系中にTMPhが存在するため、連鎖反応は長く続かないと考えられる。これらの事実から、本反応系において、反応時間30分までにVG・MGPを攻撃している活性酸素種は、主にHO・であると予想された。初期pH13.1においてはk_<VG>(t)/k_<MGP>(t)=0.3であり、HO・のpK_a値が11.9であることを考慮すると、この値は、HO・の共役塩基O^-・の反応選択性値と考えられた。したがって、pHにより反応選択性値が大きく異なった。反応時間30分以降では、TMPhが存在しないため連鎖反応が長く続くことが予想される。この間のk_<VG>(t)/k_<MGP>(t)のpH依存性は徐々に低下した。したがって、連鎖反応では、系のpHよりモデル化合物の構造が反応速度に影響することが示唆された。
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