バイオマスは再生可能な資源であることに加え、カーボンニュートラルという特徴を持つことから、バイオマスの利用は地球温暖化ガスの排出削減に大きく貢献することが考えられている。木質系資源はその存在量からバイオマス利活用の中心を担うものとして期待されているが、経済性などの問題から、間伐剤・被害木を含む林地残材や建築廃材などの利用が十分でない。これら木質系廃材の化学的高度利用には酸加水分解法による糖化・醗酵によるエタノール生産が有効な手段であるが、副産物として多量に産出する酸加水分解リグニンの有効な利用方法がない。しかしながら、酸加水分解リグニンはフェノール性の高分子であることから、効率的な化学変換により、高付加価値の製品を生み出すことが可能であり、さらに、酸加水分解糖化法は「エネルギー利活用」だけでなく「製品利活用」にも有効な手段となり得る。 本研究にて、酸加水分解リグニンの構造および反応性に関する研究を進めるうちに、硫酸を用いて得られた酸加水分解したリグニン(硫酸リグニン)をフェノールと反応させることにより、反応性の高い高分子へと変換しうることが分かった。このフェノール化硫酸リグニンにスルホン酸基、カルボキシメチル基、アミノメチル基などを導入することにより、アニオン性およびカチオン性の水溶性高分子への変換に成功した。このアニオン性水溶性高分子は、市販のリグニン製品であるリグノスルホン酸よりも高い分散性能を示し、また、カチオン性水溶性高分子は、紙へのロジンサイズ剤定着剤として、酸性から中性までの広い範囲で優れた能力を有することが明らかとなった。イオン交換樹脂は、フェノール化硫酸リグニンへの親水基導入とホルムアルデヒドによる樹脂化を組み合わせることにより、誘導に成功した。これら変換物は高分子電解質という性質を持つことから、上記性質のほかにも、様々な機能を有することが期待される。
|