研究概要 |
スギの心材水分量は品種・個体間で様々であるが,心材水分の多少は材としての価値を左右する重要な要素のひとつである.本研究は,心材部位の水分の集積過程の解明という目標のために,含水率の異なるスギ心材において細胞の水分状態を細胞単位で明らかにすることを目的としている. 本年度は,まず,立木状態の木部水分分布を試料調整中に変化させずに把握する手法の検討を行った.試料の採取は立木のまま液体窒素で凍結してから伐採する立木凍結法を主手段とした.伐採前の凍結が不可能な樹幹上部には伐採直後に凍結する伐採後凍結法を用い,これらを併用する手法により立木状態の水分状態をほぼ変化させずに把握することが出来た.採取した試料は,含水率測定と軟X線法により木部全体の水分分布を調べるとともに,低温走査電子顕微鏡(cryo-SEM)法により個々の細胞内こうの水分の有無を観察し細胞単位の水分分布を把握できることを明らかにした. 上記手法を用いて,スギ木部の半径方向と樹幹高さ方向の水分分布を調べたところ,次の結果が得られた.(1)放射方向において,早材部では水分が消失した仮道管が辺材から白線帯へ徐々に増加し,心材で含水率が高い場合には仮道管内に水分を再充填する.(2)晩材部では含水率の多少に関係せず,辺材・白線帯・心材のすべてで仮道管からの水分消失が起きない.(3)同一樹幹高さ方向において,放射方向の水分分布に樹幹高さによる明らかな違いはない. 以上の成果を踏まえ,次年度は,含水率の違う個体間で水分分布様式に違いがあるのか,また,水分分布様式に季節変化が見られるのかについて明らかにする予定である.
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