研究課題
スギ心材の水分の集積過程の解明という目標のために、本研究はスギ木部の水分分布を細胞単位で明らかにすることを目的として行った。初年度に検討した手法をもとに、本年度は、含水率の異なる心材を持つスギ木部の水分分布を細胞レベルで詳細に解析した。心材含水率の高低にかかわらず全ての個体で、辺材ではほぼ全て仮道管は水で満たされており、白線帯では晩材の仮道管は水で満たされていたが、白線帯のそれ以外の仮道管は水分を喪失していた。心材では、ほぼ全ての晩材仮道管は水で満たされていたが、早材部では水で満たされた仮道管の割合が個体や部位により異なっていた。その割合は、心材含水率の高い個体の含水率の高い部分で高く、同じ個体でも含水率の低い部分では低い傾向が見られた。また、心材含水率の低い個体では、水で満たされた仮道管の割合は低かった。これらの結果により、樹木の含水率の違いには心材の早材部仮道管の水分有無が大きな影響を及ぼすことが明らかになった。次にスギの同一樹木の樹幹軸方向の高さが異なる部位における木部水分分布を解析した。辺材のみで構成される樹幹上部では髄付近を除き木部の仮道管は全て水で満たされていた。また、辺材と白線帯のみから構成される樹幹部位では、辺材のほぼ全ての仮道管と白線帯の晩材の仮道管は水で満たされていたが、白線帯の晩材以外の仮道管は水分を喪失していた。これらの結果により、樹幹軸方向における水分分布の変化は放射方向で見られる水分分布の変化とおおむね同様の傾向であることが明らかになった。本課題の研究により含水率の異なるスギにおける木部の水分分布を細胞レベルで解明することができた。しかしながら、異なる水分分布を引き起こす機構に関してはさらに研究を進める必要がある。
すべて 2006
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Wood structure and Properties '06(Kurjatko S.、 Kudela J. & Lagana R. (eds.))(Arbora Publishers,、Slovakia)
ページ: 77-81