研究概要 |
本研究では,本種の秋および冬発生群の示す資源変動パターンが,"再生産時期の秋から冬にかけての冷却の進行と,経年的な冬季の冷却強度が卵塊・ふ化幼生の生残に影響する"との見地に立ち,スルメイカの資源変動のメカニズムを解明することを目的として実施した.今年度では,これまでのスルメイカの生活史における知見(ふ化幼生の正常遊泳水温範囲,産卵海域の水深,海洋構造との関係)を基に,衛星画像,気象データ,海底地形データより,スルメイカ幼生の生残海域を,地理情報システム(GIS)の手法を用いて,主産卵場である東シナ海における,10月から3月までの当該海域の空間的,時間的な変化を解析した。今年度では,さらに精度を上げるために気象庁が作成した衛星画像再解析データ(MGDSST)を用いた。 その概略は ・東シナ海では,10月から3月にかけて季節風の速度の増加とともに気温が下がり,海面を冷却している。 ・ふ化幼生の生残可能海域は,秋生まれ群が発生する10月から11月までは対馬暖流の影響下の東シナ海の陸棚上にあり,冬生まれ群が発生する1月から3月までは,黒潮が卓越する黒潮の影響下にある。 ・秋生まれ群,冬生まれ群は,対馬暖流と黒潮の二つの輸送経路に分かれるかを解明。 ・結果的に,本種はこの輸送経路の切り替わりによって,生残に不適な生物・物理環境への輸送,索餌,被食などを分散させる,bed-hedging戦略をとっていることが明らかになった。 これからのことから,秋生まれ群は相対的に生産力が低いが変動が小さい日本海へ,冬生まれ群は,変動が生産力は高いが変動の大きな太平洋側へと輸送されることによりその変動パターンが異なることが明らかになった。本成果は只今,国際雑誌に投稿中である。
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