北海道において経済的価値の高いウニは養殖事業の最適種の一つであり、ウニの種苗生産技術は、ほぼ確立さているものの、食品的価値の高いサイズまで効率的に飼育する中間育成技術の確立には至っていない。本研究では、ウニ類の新たな養殖技術に応用するための第一歩として、ウニ類の生殖生理学の基礎的知見の集積を目的としている。本年度では、エゾバフンウニをモデル生物とし、生殖巣の発達に関与するタンパク質の同定と遺伝子配列の決定を行った。多くの卵生動物では、卵黄中に個体発生に必要な栄養源として卵黄タンパク質を蓄積している。ウニ類においても卵黄タンパク質は存在するが、それらの機能などは詳細にされていない。ウニ類において興味深いのは、魚類では主要な卵黄タンパク質は雌特異的に存在するが、ウニ類においては雌雄生殖巣内に共通に存在することが知られている。本研究では、雌雄生殖巣に共通して存在する主要卵黄タンパク質(MYP)および雌生殖巣のみに存在するタンパク質を同定し、それらのcDNAをクローニングし遺伝子配列を決定し、これらの発現解析を行った。MYPについては、アミノ酸1347残基をコードする全長4044bpのcDNAを得た。アミノ酸配列の解析の結果、MYPは鉄結合機能を有していることが示唆された。また、雌特異タンパク質として分子量約33kDaのタンパク質(YP33kDa)を免疫生化学手法により同定し、粗精製を行った後にN末端アミノ酸配列を解読した。解読したアミノ酸配列をもとにプライマーを作製し、RACE-PCR法によりcDNAのクローニングを行い、アミノ酸348残基をコードする全長1044bpのcDNAを得た。アミノ酸配列の解析の結果、脊椎動物の神経細胞に発現している細胞接着機能を有するFasciclinタンパク質と相同性を持っていた。これらのことから、MYPは配偶子形成に必要な鉄分子を運搬している可能性が、YP33kDaは受精時の精子との細胞接着に関与している可能性が示唆された。次に、MYPならびにYP33kDaの遺伝子の発現解析を行った。MYPについては、雌雄の生殖巣、消化器官に発現が認められた。YP33kDaにっいては、雌生殖巣のみで発現が認められた。これらの結果から、これらのタンパク質はエゾバフンウニ生殖巣の発達機構解明のための分子マーカーとして有用であると示された。
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