研究概要 |
南北に広い日本列島周辺に生息する温帯性魚類資源においては、緯度(気候)クラインに対する適応的形質の遺伝的分化が存在する可能性がある。このような局所適応の実態を解明するために、日本各地で水産資源として重要なハゼ科のシロウオLeuopsarion petersiを対象に共通環境飼育実験を駆使して、緯度集団間の繁殖形質や初期生活史形質における変異パターンについて検討している。平成18年度は、複数の水温レジームにおいてシロウオ仔魚を育成し、その初期生活史形質における水温環境への反応基準を緯度集団間で比較した。 研究代表者はDNAの塩基配列分析からシロウオには遺伝的に大きく分化した日本海型と太平洋型が存在することを明らかにしている。本研究では、シロウオ日本海型を対象とし、緯度の大きく異なる佐賀県唐津市産(低緯度集団)と青森県鰺ヶ沢町産(高緯度集団)の集団を飼育実験に用いた。2地域の河川に産卵遡上したシロウオから飼育下で得られた艀化仔魚を15℃、20℃、25℃、30℃の4水温区に設定した共通環境下で育成し、成長速度や形態発育速度(特に摂餌や遊泳に関連する形質)の水温に対する反応基準を比較した。 シロウオ初期成長速度はいずれの集団25℃区で最大値に達し、15℃区と30℃区の成長はきわめて遅かった。また、何れの水温区でも、高緯度集団のほうが成長速度が速く、この現象は緯度間補償の理論に適合していると考えられた。また、形態発育速度に関しては,何れの集団も高水温区のほうが同じ体サイズ(全長)における形態発育が進んでいたが、同じ水温区で比較すると同一サイズにおける形態発育は低緯度集団で進んでいた.このように,日本海産シロウオの初期成長・初期発育には緯度間の変異が明瞭に存在し、さらに本種における種内異時性の存在が示唆された。
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