研究概要 |
魚類の脳は性的可塑性をもち、外的・内的要因により、容易にその性が逆転し得る。しかし、その分子メカニズムに関してはほとんど明らかとなっていない。我々は今回、そのメカニズムを明らかにする基盤として、魚類の脳内で性特異的な発現パターンを示す遺伝子の単離・同定を試みた。実験材料としてはメダカを選定した。メダカは近年、モデル動物としての基盤整備が急速に進行しているとともに、Y染色体上に存在する性決定遺伝子が同定されているなど、生殖生理学・神経科学に関する知見が多く蓄積されている。まず、PCRを利用したcDNAサブトラクション法を用い、性成熟した雌雄の脳内で発現量に差のある遺伝子のcDNAクローンが濃縮されたサブトラクションライブラリーを作製した。その中から計6,000のcDNAクローンをランダムに選び出し、塩基配列を決定した。その後、ドットプロットハイブリダイゼーション解析、および定量的リアルタイムPCRにより、真にメダカ脳内で性特異的に発現する遺伝子をスクリーニングした。また、それと平行して、過去の文献から発現量に差がある可能性がある遺伝子を約100種類、メダカからin silicoクローニングし、それらについても定量的リアルタイムPCRにより、脳内での発現量の性差を調べた。これらの実験の結果、真にメダカ脳内で性特異的に発現する遺伝子を計11個同定した。そのうち、5個がメスで高い発現量を示す遺伝子で、6個がオスで高い発現量を示す遺伝子であった。
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