本研究の目的は、水田農業において「地域としての存立」が強く求められているという問題意識に立ち、与件変動に対する「地域対応力」の評価方法ならびにそれを規定する要因に関して、東北の主要水田地帯を調査フィールドとして基礎的な知見を得ることである。 初年度は、山形県酒田市の2地区(昭和旧村単位)における地域農業再編過程の分析から、以下の諸点が明らかとなった。 第1に、農産物価格決定における市場原理の一層の浸透や農業支援機関の統廃合など、地域農業を取り巻く与件変動は1980年代半ばを起点として、2001年の小泉内閣発足以降、一層加速してきている。 第2に、地域農業を構成する要素として、(1)農業生産、(2)資源保全、(3)マネジメントの3領域を想定する必要がある。これらは互いに切り離すことはできず、三者を一体的に考えなければならない。 第3に、対象地域における地域農業再編は、農家-ムラ・集落-昭和旧村という三層構造の主体間連携によって行われてきた。とりわけ近年、基礎自治体や農協、土地改良区等の関係機関の合併・統廃合が進展してきている中で、より末端レベルの地縁的組織(地域社会組織)の役割が重要になってきている。こうした地域社会組織の機能をいかに発揮させるかが、農業生産、資源保全、マネジメントの効率を高めることに併せて、与件変動への地域として対応する上でのキーとなると考えられた。 第4に、地域社会組織の機能を発揮させる要因としては、昭和旧村範域ならびに集落範域における機動的な話合いの場の存在、それをサポートする関連機関の存在、地域社会組織における役職の持ち回り慣行、農地改革前後における農民運動の経験などが考えられた。
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