平成17年度は、養殖マグロ需給・市場の現段階を整理した上で、流通主体のビヘイビアー、とくに量販店の商品化対応に注目し当該商材の流通・価格形成要因の検討を行った。その結果、次の4つの知見を得た。 第1に、90年代半ば以降、国内外でマグロ養殖の着業が進む。出荷量の92%を海外が占め、この9割が日本に搬入される。クロマグロ等の国内当年供給量では養殖物が6割以上を占め、天然物との間で主客の交替が決定的であること、価格の急落・変動幅の縮小と需要市場のシフト(量販の基軸化)等が確認された。 第2に、量販店の仕入・販売展開では、メバチ・キハダの定番・大衆性が増すなかで、90年代後半以降、養殖物を軸としたトロの販売強化が強まる。養殖トロは新たな集客・利益確保商材として評価を得るが、売価が高いうえ色変わりも早く販売ロスは2割前後に及ぶ。製品設計モデルを試算することで、量販店が収益性の確保を前提に、販売ロスを吸収し得る目標値入率を設定し、さらに売価を考慮して限界価格をはじき出すことで仕入に対応していることを実証的に明らかにした。 第3に、量販店は特定納品業者との固定的・協調的な取引関係を構築し、当該業者を自社の商品化回路に組み込むことで、または価格・取引交渉段階でのイニシアチブの発揮・直接交渉を通じて、製品設計の具現化と商品回転に応じた仕入の適正化(トレードオフにある販売ロス・機会ロスの解消)に対応することを明らかにした。生鮮品は市場経由、冷凍は市場外仕入の割合が一般に高い。 第4に、これら踏まえれば、近年の価格急落は単に需給問題(供給増)のみならず、量販店など川下の商品化戦略や強固なバイイングパワーに対する拮抗力の欠如、つまり納品業者のマーケティング力の脆弱さに根ざす問題であることも想定された。現行価格形成メカニズムを捉えるためにも、今後は取引当事者間の価格交渉など主体間関係の実証解明を進めたい。
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