近年のマグロ市場再編を牽引する養殖物に注目し、海外産地と国内流通の接点に立つ商社・水産会社等の企業行動から当該商材を巡る取引と競争、流通変容の動向把握に努めた。その結果、次の知見を得た。 (1)天然冷凍マグロの一船買いビジネスに関る流通各社が90年代後半以降、合資投資や輸入・国内販売など養殖物の商品化に動き、川上・川中双方の垂直的業務拡大と重複が増すこと、一船買業者で現行マグロ販売高の2〜3割、大手水産会社では9割を養殖物が占める現況等が確認された。 (2)養殖業者からの集荷には多額の前渡金を要し、集荷量は輸入各社の資金力に規定される。近年は養殖経費の増加や販売価格の低下に直面する養殖業者が輸入業者への資金・販売依存を増し取引先選別を強める一方、大手を中心に巨額の資金を投じ集荷量の確保に乗り出す動きもある。当該輸入量の6割を上位7社の取扱いが占め、うち5社が商社等である。 (3)国内販売は輸入段階に増して寡占化が色濃く、上位5社の取扱量が6割に及ぶ。量販店取引を巡る流通業者間の競争激化と連動し、同業他社への競争優位を確保するべく流通経路の短縮やコスト削減に乗り出す動きが強い。95年に僅か5%であった養殖物の市場外流通比率は2003年現在72%に上昇、卸売市場は場外対応を補完するサブチャネルとしての位置づけを強める実態が確認された。 (4)上述の多段階の水平的競争と寡占的取引構造の深化が、輸入業者が取引シェアの確保を狙って川上・川下との協調的な関係構築に動く、あるいは国内流通上、場外販売対応を強める根拠・動機付けとなっていることが明らかとなった。 なお、寡占化の進行が価格形成や流通機構の変容に及ぼす影響も無視し得ないことからも、当該ビジネスの競争構造の現段階をより実証的・具体的レベルで捉える必要があると考えられ、今後は再編の渦中に置かれる中小流通業者の企業行動、生残り戦略に関する検討も進めたい。
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