近年、研究・普及・指導等の場面において、生産者の意思決定支援を目的とした経営診断・計画手法の開発、農業技術体系データベースの構築等、経営情報システムの開発・利用が活発化している。このとき、これらのシステムで利用される主なデータは、生産要素投入量・産出量等を貨幣ターム・物量ターム・時間タームなどの尺度で捉えたものである。 他方、一般に、果樹作等の労働使用的な営農類型では、稲作や畑作等と比較した場合、労働投入に肉体的および精神的苦痛(不効用)の伴う程度が高い。しかし、以上のシステムにおいて利用されているデータでは、これら効用の程度が必ずしも数量的に評価されているとはいえない。つまり、このような労働投入に伴う多様な効用を数量的に把握し、経営外部情報として整理することが、経営意思決定支援の場面における重要な課題となっている。 本研究では、果樹作農家行動を対象に、経済性の視点に加え、肉体的・心理的な費用・便益(不効用・効用)を考慮した農家行動の主体均衡モデルを構築・推定し、労働投入に伴う多様な効用を考慮した投入・産出関係の数量的把握を課題とする。 ところで、果樹作農家行動の主体均衡モデルを構築する場合、背景となる価格条件の設定において、対象農家が属する産地の行動が重要な前提条件となる。具体的には、各産地の果樹経営安定対策への参加の有無により、該当農家行動の背景となる価格条件が大きく異なる。 そこで、本年度は、果樹作農家行動の背景となる社会経済的条件について、特に2001年度から実施されている果樹経営安定対策下における価格条件を数量的に把握するため、生産制限の配分主体である産地の視点からみた本対策参加の経済性のモデル分析を行った。
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