研究概要 |
房総半島中部の高宕山周辺からニホンザルの生息域拡大の前線である鋸南町にかけての地域について、土地利用変化と農地に対する森林及び草地の隣接関係を考察した。土地利用の変遷は、1880年代、1960年代、1980年代の3時期について土地利用図を作製し明らかにした。各年度の土地利用図について、東から西へのニホンザルの生息域拡大過程との対応を見るために、調査対象地域を高宕山に近い東部、鋸南町と高宕山の中間にあたる中央部、鋸南町周辺の西部の3地域に区分し、それぞれの地域毎に土地利用の変遷を分析した。具体的には、地域ごとに土地利用面積集計するとともに、畑、水田、果樹園の農耕地の周長に対して各土地利用が占める割合を算出した。その結果、調査対象地域では針葉樹や草地から広葉樹への土地利用変化が顕著にみられ、農地に隣接する土地利用に広葉樹が占める割合が増加した。 そこで、生息域変化に及ぼす空間構造の影響を定量的に評価するため、生息域の拡大のしにくさを示す累積コスト距離モデルを開発した。本手法により推定されたコスト値は,樹林地で低く,畑や水田等の農耕地,ゴルフ場や草地等の開放的な空間及び住宅地で高い傾向が認められた。また,分析対象地域の南部には直線距離が近いにもかかわらず生息域拡大が認められないが,この地域は水田や住宅地が密集し累積コスト距離が遠いためと考えられた。一方で,中央北部の様にコスト距離が近いにもかかわらず拡大が認められない場合もあった。 以上より、かつての房総半島では草地が多かったため生息域拡大が制限され、人為干渉の強い土地利用が農地に隣接していたため、猿害が生じにくい環境だったと考えられる。 アンケートについては、猿害対策を行っている方にヒヤリング調査を行い、アンケート調査項目及び配布対象地域を選定した。
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