レトルト処理を施した食肉製品の高付加価値化を図るため、レトルト処理による食肉の食感低下の要因解明と機能性強化の可能性について検討した。まず、筋原線維タンパク質モデル系を用いたレトルト食肉の食感低下機構の解明に関する基礎的研究過程において、レトルト処理を施した筋原線維タンパク質ゲルの物性は、対照として設けた75℃加熱ゲルと比較して大きく低下し、ゲルの微細構造も脆弱な構造を呈していた。また、筋原線維タンパク質ゲル構成成分中のタンパク質がレトルト加熱によって著しく減少し、それに伴い低分子量タンパク質(数千Da以下)が増加することと、ミオシンヘビーチェーンの分子量(200kDa)を大きく超える巨大な会合体が出現することを見出した。これらタンパク質成分の分解並びに会合体形成が物性低下の一因であることを明らかにした。この巨大な会合体は食肉製品の食感決定要素とされているミオシンとアクチンからなっており、100〜130℃の温度範囲において形成がみられ、形成量は加熱温度依存的に増加した。現在、熱力学的手法を取り入れることにより機構解明を進めている。 次に、レトルト処理を施した食肉における機能性発現の有無について調べるために、タンパク質分解の指標である遊離アミノ酸・ペプチド量の変化並びに血圧上昇抑制の指標であるアンジオテンシンI変換酵素(ACE)阻害活性を指標として検討を行った。その結果、未加熱あるいは75℃加熱区と比較して、レトルト処理を施すことにより、遊離アミノ酸並びにペプチド量が有意に増加し、またACE阻害活性においてもレトルト加熱区の活性が最も高くなることが明らかとなった。現在、活性因子の特定、並びに他の機能性指標(抗酸化性、細胞増殖・分化賦活作用)の発現の有無についても検討を進めている。
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