レトルト処理を施した食肉製品の高付加価値化を図るため、レトルト処理による食肉の食感低下の要因解明と機能性強化の可能性について引き続き検討してきた。筋原線維タンパク質である天然アクトミオシンをモデル系として用いたレトルト処理食肉の食感低下機構の解明に関する研究において、レトルト処理を施した天然アクトミオシンゲルの著しい物性低下は、特異なaggregatedタイプの構造を呈することに起因することが、ゲルの走査型電子顕微鏡像並びにその画像解析値から明らかとなった。さらに、示差走査熱量分析装置(DSC)を用いた熱力学的解析から、レトルト加熱処理がもたらす高昇温速度は、ミオシンのTmaxの高温域シフト化に加え、ΔHの増大を引き起こすことが明らかとなり、アクトミオシンの本体であるミオシンの加熱変性挙動の変化がaggregatedタイプのゲル化に導く一つの要因であることが示唆された。 次に、レトルト処理を施した食肉における機能性発現の有無に関する検討において、レトルト加熱による著しいタンパク質分解に伴って、血圧上昇抑制の指標であるアンジオテンシンI変換酵素、並びに抗血糖上昇の指標となるジペプチジル・ペプチダーゼIVに対する阻害活性が顕著に上昇することが示された。これらの酵素を50%阻害するために必要なペプチド量であるIC_<50>を1単位とし、レトルト処理により遊離ペプチド量が増加した食肉試料にその活性単位が何単位含まれるか(総活性量)を求め、対照として設定した75℃加熱区と比較した。その結果、いずれの酵素の阻害活性指標においても、対照区と比較して総活性量が著しく増大することが明らかとなり、レトルト処理は食肉の機能性強化に十分に寄与する可能性が示された。
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