アムールトラからは電気刺激によって活性の高い精子を安定して採取可能であることが確認できた。これらの精液の凍結融解後の活性は凍結前のおよそ40%まで低下していたものの、体外で成熟させた猫卵子と共培養したところ、透明帯への精子の付着および侵入が確認され、一部の卵子では受精も確認された。このことからアムールトラの凍結融解精子は受精能を保持しており、人工授精に使用可能であることが示唆された。また、新鮮精液を用いた人工授精を2回試みたが、妊娠にはいたっておらず、人工授精時の雌における排卵誘起に問題のあることが示唆された。雌から定期的に採血を行い血中ホルモン測定を行うことは不可能であるため、糞中ステロイドホルモンの測定を試みた。その結果、エストロジェンは測定できなかったものの、プロジェステロンは発情時には低値を示し、発情終了後に上昇することがわかった。この結果から、妊娠に至っていないものの排卵は誘起できており、発情終了後に偽妊娠状態となることが示唆された。 エゾヒグマでは電気刺激による精液の採取を実施した個体のおよそ半数から活性の高い精子を得ることができた。活性の高い精子を得ることのできない個体では、尿の混入による急激なpH低下のために精子が死滅した。尿の混入を避けるため、形状の異なった直腸プローブ(電気刺激用)を作製し、試験を行ったが、確実に精子を採取できるプローブを開発するには至っていない。また、精子を採取できたとしても、精液に多量の白血球が混入し、白血球と精子頭部が付着することによって先体の損傷が見られ、凍結融解後の精子活性が低くなることが示された。ヒグマにおいても新鮮精液を用いた人工授精を計3回試みた。2例は妊娠にいたらなかったが、1例は現在経過を観察中である。
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