本研究では、鳥類卵胞における選択的抗体輸送機構の解明と機能性卵作出への応用を最終目標とし、卵胞輸送に必要とされる免疫グロブリンY (IgY)の構造領域と移行特性を明らかにすることを目的とした。得られた結果の概要は以下の通りであった。 1)IgYの構成断片である、Fc、F(ab)_2、FabをDIG標識し、産卵ウズラへ同量を投与した。抗体移行量が最大となる投与後3日目に産卵された卵における各構成断片の移行量を測定した。その結果、卵黄への移行量はIgY>Fc>F(ab)_2>>Fabの順に減少した。したがって、卵胞へのIgY輸送には、定常領域であるFc領域を含む方が効率的に輸送される可能性が示唆された。 2)産卵ウズラへDIG標識したIgY、Fc、Fabを投与し、血液中の各IgY断片の濃度を経時的に測定した。その結果、血液中半減期はIgY>Fc>>Fabの順に低下し、卵黄への移行量とほぼ同じ傾向にあった。したがって、各構成断片の移行速度の違いは、血液中での分解速度の差に起因すると推察された。 3)鳥類卵胞へ移送されることが報告されているヒトIgAならびにIgYをDIG標識し、産卵ウズラの卵黄への移行量を測定した。抗体投与後6日間の卵黄中への総抗体移行量は、両者でほぼ等しくなった。しかしながら、血液中半減期はヒトIgA>IgYであり、両者の間で卵胞への取り込み速度が異なる可能性が示唆された。 4)上記3)の仮説を検証するため、DIG標識したヒトIgAならびにIgYを産卵ウズラへ投与し、投与後6時間までの卵胞移行量を測定した。その結果、投与後6時間までに、IgYがヒトIgAの10倍以上も多く移送されていることが判明した。よって、鳥類卵胞にはIgYを選択的に輸送する特別な機構が存在することを更に支持する結果を得た。
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