本研究の目的である摘出脊髄標本を用い、亜鉛の脊髄神経に与える影響を明らかにするため、新生ラットから摘出した脊髄半裁標本を用いて脊髄反射電位に対する亜鉛の効果を検討し、以下の結果を得た。1.脊髄後根を電気刺激すると、対応する前根からMSR(monosynaptic reflex potential)、fPSR(fast polysynaptic reflex potential)及びsVRP(slow ventral root potential)が、また隣接する後根からDRP(dorsal root potential)記録された。2.亜鉛は、MSR、fPSRには影響を与えず、sVRPに対しては低濃度(0.5-2μM)では抑制、高濃度(5及び10μM)では増強作用を示した。また高濃度亜鉛によってベース前根電位のわずかな脱分極が観察され、激しい自発活性の増加が生じる標本もあった。3.グリシン受容体拮抗薬ストリキニーネとGABA_A受容体拮抗薬ビククリンは、亜鉛と異なりsVRPとともにfPSRも増強した。4.GABA_A受容体拮抗薬ビククリンは、DRPを抑制したが、亜鉛はDRPに影響を与えなかった。5.亜鉛による増強効果は、NMDA受容体拮抗薬ケタミン及びAP-5によって抑制されたが、ATP受容体拮抗薬PPADS及びTNP-ATPは亜鉛の効果に影響を与えなかった。以上の結果から、亜鉛はストリキニーネやビククリンとは異なる作用機序で、脊髄反射電位を増強していることが示された。この増強作用には、NMDA受容体を介した反応が関与していると考えられる。このように亜鉛が複雑な作用を持つことから、その病態に対する役割を明らかにするためには、亜鉛の神経活動に与える影響とその機序をさらに検討することが必要であると思われる。
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