本研究はバベシア原虫感染症に対して本原虫の生活史を総合的に鑑み、制圧に最も重要と考えられる媒介マダニ体内ステージにおける適応という観点からバベシア原虫の変動現象の解明を目的として行われた。 以下に本年度の研究成果の概要を述べる。 1.イヌのバベシア原虫であるBabesia gibsoniの薬剤標的遺伝子であるcytochrome b遺伝子をクローニングし、塩基配列を決定した。加えて、薬剤耐化した原虫はcytochrome b遺伝子が変異を起こしている事を確認した。 2.イヌのバベシア原虫であるBabesia gibsoniの分泌蛋白質をコードする遺伝子をクローニングした。この蛋白質は診断用抗原としても有用性が高いという事が確認された。 3.ウマのバベシア原虫であるBabesia equiのメロゾイト抗原をコードする遺伝子をクローニングした。この蛋白質は赤血球内蛋白質と接着し、本原虫の細胞内寄生時における何らかの恒常性に関与する蛋白質である事が示唆された。またこの蛋白質は、マダニの唾液腺内ステージで発現する蛋白質と非常に相同性が高く、今後マダニ体内での寄生時における恒常性という観点から発現動態を解析する事により、新たな知見が得られる可能性を示した。 4.バベシア原虫生活史において重要な増殖の場であるマダニ体内における動態観察のため、バベシア原虫感染マダニ作出を実験的に行い、原虫の動態観察を行った。本実験的感染法を用いた場合において、経時的にマダニ体内におけるより詳細な原虫動態観察を可能とした。この方法を用いる事によって、ウマのバベシア原虫の一つBabesia equiが、今まで宿主として明らかにされていなかったフタトゲチマダニにより媒介される可能性が強く示唆された。
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