インフルエンザウイルスの効率よい増殖には、ハマグルチニン(HA)とノイラミニダーゼ(NA)の活性において適切なバランスが重要であると考えられている。これまでの研究で、野生水禽に由来する鳥インフルエンザウイルスの鶏での増殖能獲得には主にウイルスエンベロープ蛋白のHAとNAの変異が関与していること、またNAの変異がどのようなステップで起ったかを明らかにしてきた。そこで、本研究ではもう一方のHAがどのようなステップで変異し、水禽由来ウイルスが鶏で増殖可能となるかを明らかにする目的で研究を実施した。 1.水禽由来株とそれを鶏ヒナで継代して作出した鶏増殖能獲得変異株(継代数24代、以下、変異株)、およびその継代途中の2株(継代数11代および18代、鶏非増殖性、以下、中間11株および中間18株)の鶏赤血球吸着活性の強さは水禽由来株>中間11株>中間18株≒変異株であった。 2.中間株の遺伝子解析から、水禽由来株と変異株のHA1蛋白に存在する8カ所のアミノ酸置換のうち3カ所(121、228、277位)が継代11代以前、2カ所(156、242位)が継代12-18代、残りの3カ所(205、254、341位)が継代18-24代の間で起ったことが明らかとなった。 3.上記のアミノ酸置換部位のうち、156、205、228、242位はHA球状頭部のレセプター結合部位付近に位置することからHAの吸着活性に強く関与することが予測される。したがって、HAは継代の進行とともに段階的に、またNA活性の低下と平行しながら(昨年度の研究成果)、レセプター結合能を低下させていると考えられた。
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