研究概要 |
本研究では、特定犬種で稀にしか発生のみられない犬色素性表皮母斑(CPEN)に関連して検出され、L1遺伝子の極一部の塩基配列しか明らかにされていないCPEN関連パピローマウイルス(PV)の生物学的意義を病理学的に解明することを最終目標としている。そこで、本年度は申請者が所有するCPEN病変組織の凍結材料を用いて、1)CPEN関連ウイルスゲノムの全長をクローニングすること、2)PCR法を利用したパラフィン切片からの新たな汎用性の高いウイルス検出法を確立すること、および3)申請者が現有するCPENからの腫瘍化がみられた症例について病理学的に検索することによってCPEN病変組織での腫瘍化機序を明らかにすること目的として研究を実施した。 1.CPEN関連PVの未知領域をクローニングし、本ウイルスの全遺伝子配列を同定した。また、CPEN関連PVの遺伝子長が7,742bpであり、これまでに唯一同定されている犬のPVである犬口腔乳頭腫ウイルス(遺伝子長は8,607bp)と大きく異なることが判明した。 2.PCR法を利用したパラフィン切片からのCPEN関連PVのL1遺伝子検出法は申請者が既に確立している。しかしながら、PV関連腫瘍組織内で広く保持されているPV遺伝子は、E6およびE7領域とされていることから、上記クローニングで得られたE6およびE7の遺伝子配列を参考にして複数のプライマーを設計し、現在検討を行っている。 3.CPENは悪性転化することがあるが、その腫瘍化機序は未解明であり、腫瘍化組織内に実際にウイルスが存在するか否かについても不明である。そこで、手掛かりとして、CPENの悪性転化による腫瘍組織内でのウイルス抗原と遺伝子(L1)の分布を検討した。その結果、腫瘍組織内ではウイルス抗原は検出されなかたが、L1遺伝子を標的としたin situ PCR法では、腫瘍細胞の一部で陽性反応が得られた。今後は、CPEN関連PVの全塩基配列が判明したことから、E6およびE7領域を標的とした検出を試みる予定である。
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