研究課題
本研究では、乾乳期における乳牛のCD4^+T細胞の機能に対するインスリンの効果に注目して、周産期におけるインスリン動態とインスリンがCD4^+T細胞機能に及ぼす役割を調査した。確立したウシインスリンレセプター遺伝子の定量系を利用して臨床的に健康で飼料給与内容が不足と飼料給与内容が充実していた乳牛を6頭ずつ選別して、分娩前のT細胞のインスリン反応性を観察した。その結果、栄養不足牛では低血糖、低コレステロールが分娩前後に持続しており、(1)分娩後の末梢血CD3^+、CD4^+T細胞数およびCD4^+/CD8^+比が持続的に低値で推移、(2)分娩前IL-10発現量が少なく、分娩後のIFNγ/IL-4比が持続的に低値、(3)乾乳期におけるインスリン負荷試験での反応性が低下している、(4)乾乳期における単核球中ンスリンレセプター遺伝子発現量が低値、であることが明らかとなった。また、インスリンは牛のCD4に対してメモリー活性を持っているが、分娩前後ではインスリン刺激によるメモリー化反応が低下した。以上のことから、乳牛では栄養不足の飼養管理にある場合には、乾乳期における白血球のインスリン反応性が低く、分娩後の細胞性免疫機能の低下あるものと示唆された。このことを踏まえ、乾乳期における乳牛の栄養とT細胞のインスリン刺激反応性を調査するため、分娩後に疾病の多発した牧場(A群)と発生の少なかった牧場(B群)において分娩前30〜1日に該当する18頭ずつ計36頭を対象にT細胞のインスリン反応性を調査した。乾乳期におけるA群のPHA単独刺激によるIFN-γmRNA発現量がB群に比べ低かったが、インスリン添加PHA刺激では反対にIFN-γmRNA発現量が高かった。 IFN-γ/IL-4比では、乾乳期におけるA群のPHA単独刺激によるIFN-γ/IL-4比がB群に比べ低かったが、インスリン添加PHA刺激では両群のIFN-γ/IL-4比がほぼ同等となった。以上のことから、本研究ではインスリンは乳牛のT細胞のTh1化を促進する作用を有することが証明された。また本研究の目的であった、抗病性に優れた乳牛の乾乳期における管理方法の免疫学的な評価において、乳牛の分娩前後における栄養不足は細胞性免疫機能の低下を招き、分娩後の感染症の発生を助長するが、T細胞のインスリン反応性には影響がないものと示唆された。このことから乳牛の分娩後の疾病予防のためには、細胞性免疫機能を向上させるために血中インスリン濃度を高く維持することが必要であると考えられた。
すべて 2006
すべて 雑誌論文 (4件)
Journal of Veterinary Medical Science 68
ページ: 113-118
ページ: 1211-1214
ページ: 1161-1166
Journal of veterinary Medical Science 68
ページ: 935-940