研究概要 |
本研究の目的は,主に細粒土砂汚染に着目して,地理情報システム(GIS)を用いた空間情報解析と現地環境調査により,河川や湖沼生態系(生物相・生息環境)の劣化が生じる条件を統計的に明らかにし,これを踏まえて,細粒土砂汚染域を推定する方法を構築することにある.平成17年度では,主に,1)衛星画像判読・現地踏査により,農地開発により水質悪化が顕在化している泥炭性の小湖沼群(13湖沼)の集水域の抽出,2)土地利用に関する現地調査と空間解析,3)年間水質調査,4)魚類分布に関する調査・生息場解析を実施した. 湖沼水質と関連付けた空間解析の結果,細粒土砂やアンモニア態窒素を主とした地表排水を由来とする成分の濃度が,湖沼に流入する水路数やその水路に連結する農地(水田・畑地)面積率の増加とともに高くなる傾向が得られた.また,その影響圏としては,湖沼近傍よりも湖沼位置からの距離が長くなるほど,湖沼水質に対する影響が大きくなること,さらに,施肥や代かきなど営農段階ごとにその影響度合いが異なることがわかった. 一方,同湖沼群での魚類調査の結果,元々泥炭性の湖沼に生息していたと考えられる魚種(ヤチウグイ,イバラトミヨなど)と農地開発後の移入種(モツゴ,ワカサギなど)が出現し,浮遊した細粒土砂量を示すSS(浮遊物質)濃度が高い湖沼ほど農地開発後の移入種の個体数が増加し,逆に,泥炭性の湖沼に生息していたと考えられる魚種の個体数が減少することがわかった.以上のことから,湖沼に流入する水路数やその周辺の農地面積率が細粒土砂汚染と関連する空間的な条件であることが判明し,そうした条件の増大に伴う湖沼への細粒土砂流入量の増加が,泥炭性湖沼に生息する魚類(現存量)に影響をおよぼしていると考えられた.
|