アーバスキュラー菌根菌(AM菌)は植物の根に共生し、土壌中のリン酸を宿主植物へと供給する糸状菌である。植物に感染したAM菌は根内に内生菌糸を伸ばし、樹枝状体と呼ばれる共生特異的器官を形成する。樹枝状体でAM菌・植物間のリン酸の輸送が行われていると推測されているが、その確証は未だ不足している。樹枝状体を覆っている植物の細胞膜においてリン酸トランスポーターが局在しており、植物は樹枝状体周辺でリン酸を吸収すると考えられているが、AM菌が樹枝状体からリン酸を放出しているのかは不明である。つまり樹枝状体で一体何が行われているのかが殆ど未知な状態である。本研究では樹枝状体で特異的に発現遺伝子群を単離することにより、樹枝状体の真の機能を解明することを目的としている。 ミヤコグサ(Lotus japonicus)の野生型株、およびAM菌が感染しても樹枝状体を形成させないLjsym82変異株(東大・院・理の川口助教授より分譲)にAM菌Glomus intraradicesを接種した。AM菌の感染した野生型株および変異株の根から全RNAを抽出し、蛍光ディファレンシャルディスプレー法を行い、10種類のcDNA断片を単離後、それぞれの発現解析を行ったが、AM菌が感染した野生型株の菌根のみで発現するcDNAは得られなかった。そこで、cDNAのスクリーニングを蛍光cDNA-AFLP法に変更した。その結果、現在までに、AM菌が感染した野生型株の菌根のみで発現するcDNAを29種類単離した。そのうち植物由来であると思われるものは17種類であった。得られた植物由来の遺伝子群がRNAi等でノックダウンさせた場合に、樹枝状体でのリン酸代謝に影響を及ぼすかを簡便に調べる方法として、樹枝状体におけるアルカリホスファターゼ活性とポリリン酸の局在を同時に観察する蛍光二重染色法を確立した。ミヤコグサの樹枝状体特異的リン酸トランスポーターをノックダウンさせた場合、アルカリホスファターゼ活性とポリリン酸の局在が同時に変化したため、この蛍光二重染色法は有効であると判断した。
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