アーバスキュラー菌根菌(AM菌)は植物の根に共生し、土壌中のリン酸を宿主植物へと供給する糸状菌である。植物に感染したAM菌は根内に内生菌糸を伸ばし、樹枝状体と呼ばれる共生特異的器官を形成する。樹枝状体でAM菌・植物間のリン酸の輸送が行われていると推測されているが、その確証は未だ不足している。樹枝状体を覆っている植物の細胞膜においてリン酸トランスポーターが局在しており、植物は樹枝状体周辺でリン酸を吸収すると考えられているが、AM菌が樹枝状体からリン酸を放出しているのかは不明である。つまり樹枝状体で一体何が行われているのかが殆ど未知な状態である。本研究では樹枝状体で特異的に発現遺伝子群を単離することにより、樹枝状体の真の機能を解明することを目的としている。樹枝状体を形成しないミヤコグサ変異株と野生株のAM菌感染根を用いたcDNA-AFLPにより樹枝状体形成には植物側のアクアポリンやリン酸トランスロケーター遺伝子の発現が関与することを明らかにした。また、既に報告されてはいるがリン酸トランスポーター遺伝子の関与も認められた。これらの植物側遺伝子群の発現をRNAi法で抑制させた場合の樹枝状体でのリン酸代謝の変化を調べる方法として、樹枝状体におけるアルカリホスファターゼ活性とポリリン酸の局在を同時に観察する蛍光二重染色法を確立した。ミヤコグサの樹枝状体特異的リン酸トランスポーターを抑制させた場合、アルカリホスファターゼ活性とポリリン酸の局在が同時に変化し、アルカリホスファターゼ遺伝子の発現も抑制されていたことからAM菌の樹枝状体におけるリン酸代謝は宿主のリン酸要求性に一部制御されていることを明らかにした(Functional Plant Biologyに論文投稿中)。
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