秋播コムギの越冬能力に関わるフルクタン代謝機構の解析を行う目的で、積雪下でのコムギ組織の可溶性糖類量の分析及び積雪下で雪腐病菌に感染したコムギ茎葉組織からのフルクタン分解酵素候補遺伝子の単離を行った。 1.積雪下でのコムギ組織に含まれる可溶性糖類量の変化 コムギを積雪下に静置し50日間経時的にコムギ組織中可溶性糖類量の変化を調べたところ、コムギの茎葉部・クラウン部で徐々にフルクタンの分解が進むことがわかった。一方、雪腐病菌接種により積雪下で感染後20日目には、フルクタンの急激な分解が起こり、雪腐病抵抗性の弱いコムギ系統では特に顕著なフルクタン蓄積量の減少が生じた。 2.雪腐病菌を接種後積雪下に静置して10日目のコムギ茎葉部からフルクタン分解酵素(Fructan ExoHydrolase : FEH)遺伝子の候補cDNAを3種類(L12-6、L12-11、L21-3)単離した。分子系統樹上では、単離した3種類のcDNAはすべてFEHよりも細胞壁型インベルターゼに近かった。3種類それぞれの組み換えタンパクを発現させ、スクロース及びフルクトオリゴ糖(1-ケストース、6-ケストース、ニストース)に対する分解活性を解析した結果、L12-6、L12-11はスクロース分解活性がフルクトオリゴ糖の分解活性より高く細胞壁型インベルターゼであると考えられた。一方、L21-3はスクロース分解活性が低く、フルクトオリゴ糖の分解活性が高かった。さらに、フルクトオリゴ糖の中では、6-ケスオース分解活性が最も高かった。6-ケストースは、スクロースにフルクトースがβ(2→6)結合で1個重合した構造を持つことから、L21-3がコードするFEHはフルクトースのβ(2→6)結合を加水分解する活性が高いことがわかった。そのため、L21-3がコードする酵素は6-FEHであると考えられた。
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